東京高等裁判所 昭和62年(行ケ)164号 判決
一 請求の原因一ないし三は当事者間に争いがない。
二 取消事由に対する判断
本願発明が「回転水力機械」に関するもので、電動機14から与えられるエネルギーのみを入力し、該入力以上のエネルギーを発電機12の出力として取り出すことを作用効果とするものであることは当事者間に争いがない。しかして自然界の基本的な法則であるエネルギー保存の法則に照らし、かかる作用効果が発生することは考えられないところであるから、右法則に反する原告の主張が理由がないことは明らかであるが、念のため、本願発明の明細書に、本願発明からそのような作用効果を生ずるとする理論的ないし技術的根拠が明らかにされているか否かを検討する。
当事者間に争いのない本願発明の特許請求の範囲の記載並びに成立に争いのない甲第二号証(本願発明の願書並びに添付の明細書(当初明細書)及び図面)及び第四号証(手続補正書)によれば、本願発明に係る回転水力機械は特許請求の範囲記載のとおりの構成を有し、また、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、「(起動段階で)電動機14に外部から給電すると、回転軸16は矢11の方向に回る、それと同時に、円板10は矢26の方向に回り、勿論導水管6には水が満たされているから、水圧管8のノズル25付近は遠心力で水が圧力エネルギーを得ている。定額速度(「定格」の誤記と認める。)に達したら電動機14のスイツチを切り同時にモーター9に給電しニードルバルブを適宜調整しながら圧力エネルギーから運動エネルギーに変えノズル25から水を放出する」(当初明細書第四頁第九行ないし第一六行)、「ノズル25が希望の回転速度Vに達した際、モーター14のスイツチを切り同時にニードルバルブを開く時、ノズル25の速度係数を0・99と仮定し、機械損を無視して考えかつ噴流の中心線が、ノズル25の先端を通る円の接線と一致している、とする時噴流の速度0・99V、放水量Qと比質量ρに於て、ノズル25にその回転方向に向う反作用力0・99ρQVが生じ自らの回転方向に自走する事になる。」(手続補正書第二頁第一七行ないし第三頁第三行)、「噴水は機械中心にあつたとき速度零であつたものが、ノズル25のところで回転速度Vとなつたのだから、当然pQV2/2の運動エネルギーを獲得して来たのであつて、これを速度Vで除したρQV/2の力が前述の回転方向に向う反作用力に抵抗していたのである。結局それらの差力0・49ρQVの力でノズル25は回転方向に自走する。この力が速度Vで自走するから外部に提供しうる出力は、0・49ρQV2となる。つまり外部からの入力なしで出力を外部に提供しうるのである。」(同頁第五行ないし第一四行)、「さて、もし前述の0・49ρQV2以上の出力を取り出すと、ニードルバルブを引いてQを増大してやらないと機械は減速し停止へと進むのである。」(同頁第一八行ないし第四頁第一行)、「なお、重力加速度をgとすると、遠心水頭V2/2g=Hは、地上に立てた円筒内の水頭Hが、その下に設けたノズルに作用する圧力と同じ圧力を与えうる事を諒解されよう。またノズル25が放水していようとなかろうと、回転がVで継続されている限り定数Hで、かつこの遠心水頭Hは自然に発生する事も諒解されよう。」(同頁第七行ないし第一四行)との記載のあることが認められる。以上を総合すると、その趣旨とするところは、要するに、起動段階で電動機14によりノズル25を一定速度まで回転させた後、ノズル25を開口してやれば、電動機14のスイツチを切り外部から入力を与えなくても、回転による遠心力で水圧管8のノズル25付近に生じた圧力エネルギー(本願発明の明細書にいう「遠心水頭H」)が運動エネルギーに変わり、これにより放出される水の反作用力で機械が回転方向に自走し、かつノズル25からの放水量を調整してノズル25の回転速度を維持することにより、右「遠心水頭H」を一定に保つことができるため、その回転を継続することができるということにあることが一応窺われる。しかし、当裁判所も、本願発明及び明細書の記載内容について、被告がその主張において<1>ないし<3>に指摘するような疑義又は理解不能の点を解消することができず、原告の指摘する当初明細書及び手続補正書の記載を含め本願発明の明細書の全記載によるも、その作用効果が発生する理論的ないし技術的根拠が明らかにされたものとは到底いい難い(本願発明の明細書中に記載されている遠心水頭の現象も、結局は電動機14による回転力に由来するものにすぎず、原告主張のようなエネルギー保存の法則の例外をなすものではなく、右作用効果を説明する根拠となり得るものではない。)。
なお、原告は、本願発明と同様の発明を英国にも出願して既に特許を受けており、更に、五六年前の英国特許や昭和四六年の米国特許においても、遠心水頭の原理が利用された特許が存する旨主張するが、右事実が認められたとしても、以上の判断を左右するものでないことは明らかである。
したがつて、本願発明の明細書の発明の詳細な説明の項には、本願発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易にその実施をすることができる程度に、発明の作用効果等が記載されたものといい得ないことが明らかであるから、本願発明の明細書が特許法第三六条第三項所定の要件を満たしていないとした審決の判断は正当であつて、何ら違法の点はない。
三 よつて、原告の本訴請求を失当として棄却することとする。
〔編註〕 本願発明の特許請求の範囲は左のとおりである。
円筒形外枠1の内側に固定された、中心部に軸うけ3を有する一枚の鋼製円板2の軸うけ3に、回転軸16をはめ、その回転軸16にコレクターリング群4をはめて固定し、次に回転軸16に、もう一枚の中空鋼製円板10をはめて固定し、その中空鋼製円板10上に遠心力に耐える構造を有する複数個の先細の水圧管8を中空鋼製円板10の中心に対し放射状に固定し、円筒形外枠1に固定された、外部から水圧管8に回転軸16付近で給水しうる導水管6を設置し、さらに回転軸16に発電機12の回転子をはめて固定し、次に発電機12の固定子を同心的に固定した一枚の中空鋼製円板13を回転軸16に接しないように回転軸16にはめ、その円板13の円周付近を円筒形外枠1の内側に固定し、さらに回転軸16を回転するための電動機14の回転子を回転軸16にはめて固定し、電動機固定部を同心的に固定した一枚の中空鋼製円板15を回転軸16に接しないように回転軸16にはめ、その円板15の円周付近を円筒形外枠1の内側に固定し、次に該円板15の中心部付近に回転軸16をはめた軸うけ17を固定し、放水口22をもうけて成る回転水力機械。